top of page
  • 執筆者の写真TackM

スルーネックのウクレレ

更新日:2023年11月27日

弦楽器のネックがペグヘッド、ナットからフレットボード終端までの範囲ではなくボディーを貫いてブリッジ、あるいはその後ろのテールピースまで一体となった構造のものを「スルーネック」と呼びます。

シガーボックス・ウクレレではあまり見かけない「スルーネック」ですが、シガーボックス・ギターではこれが基本形なんですね。以前も書きましたが、シガーボックス・ギターの前身とも言える Diddley Bow (ホウキの棒のようなものに弦を張ったような手作り楽器)はこの「スルーネック」そのものだと言えます。


張った弦がそれなりのいい音を出すためには、まず弦がそれなりの張力でピンと張っている必要があります。そのためには弦を張るベースになる木の棒がその張力に負けず、簡単に反ってしまわない素材である必要があります。


そのためギターでもマンドリンでもバンジョーでもウクレレでも弦楽器のネック材といえばある程度の堅さがあるメイプルかマホガニー、あるいはコアなどが使われています。


でもネック材だけの Diddley Bow では大きな音が出せません。このような構造では弦の振動とネック材の棒が共振するだけでだからです。そこで、ネックの棒に空き缶や空き箱を取付けて振動を増幅しようとしたのがシガーボックス・ギターだと考えれば良いかと思います。実際、多くのシガーボックスギターは「スルーネック」の構造で作られています。


エレキギターやエレキベースではこの「スルーネック」構造をよく見かけます。アコースティックでも外見上区別がつかないのですがリゾネイター式のギター(DOBROなど)はほとんどが「スルーネック」構造です。三味線やバンジョーもやはり「スルーネック」の構造ですね。でも一般的によく見るアコースティック・ギターやウクレレはスルーネック構造ではないです。なぜでしょうか?


ソリッドボディーのエレキギターは「スルーネック」ではなくてもネックとボディ材がボルトで一体化されて Diddley Bow と似たような構造になっています。当然そのままでは楽器としての音は小さいですからマグネット式のピックアップで弦の振動を増幅して音を出しています。


エレキギターの音は弦の振動を電気的にひろうピックアップで決まると思われがちです。事実大部分はそうなんですが、エレキギターのネックを交換したことがある人はそれによって微妙に音が変化したことに気がついたと思います。弦の振動は弦を張るベースとなるネック材によってその波形が変わるんですね。音の立ち上がりが違うとか、音が硬いとか柔らかいとか、、この辺りの表現はよく解らないんですが、明らかに違いますね。


エレキギターの場合はこのネック材とボディー材を一体に組み合わせた材で振動しますので、ネック材の音の特性を100%活かしたい場合に「スルーネック」の選択肢があるのではないでしょうか?もちろんデザイン上の問題、材の取り都合などの様々な要素があるとは思います。


アコースティックギターの場合は他の弦楽器と同じように大きく豊かな「響」を求めて工夫を重ねてきた歴史があります。木製のボディーとネックを一体化して、弦の振動を音に変える表板、箱自体の振動、箱による共鳴、などで「響」を追求した結果、できるだけ薄い材を使用して振動させ、しかもネックとボディーのしっかりとした一体構造を確保しながら同時に楽器自体の質量をできるだけ減らす・・


その結果が現在のギターやウクレレの形になっています。あの胴がくびれた独特な形も、薄い材で強度を出すための工夫です。内部構造も薄い材に対して様々な形でブレイス(力木)が施され、強度を確保しながら音響効果を最大限に出す工夫がされています。


さて、それではシガーボックス・ギターが「スルーネック」でシガーボックス・ウクレレがそうではないのでしょうか?それはスチール弦の張力、ネックの長さ、ボディになる葉巻の箱の大きさや作りとのバランスの問題です。


葉巻の箱はそもそも楽器用に作られているわけではありません。昔の葉巻の箱は技術も無かったために少し厚いですが杉の一枚板などで作られており、箱としての強度を保てる構造になっていました。ところが最近の葉巻の箱は木製といってもいわゆるベニヤ板が中心で、紙を貼ってなんとか箱の形を保っているようなものも多いです。MDF 材でつくられたものやボール紙で作られたものまで出てきています。


これに対してシガーボックス・ギターの場合、長いギターネックの材と小さな弱い箱とを一体化させて強度を持たせスチール弦の張力を支えるのには無理があります。「スルーネック」方式にして弦の張力に対する強度はネック材に持たせるのが最も適していると言えるでしょう。現在シガーボックス・ギターの主流はマグネット式ピックアップによるエレキギター化なので葉巻の箱はほとんど音響的な意味を持たなくなっていると言えます。


一方シガーボックス・ウクレレはそもそもウクレレのサイズが葉巻の箱に合っており、ナイロン弦の張力、ネックの長さなどが小さな弱い箱でも多少の内部補強を入れさえすればなんとか普通のウクレレと同じようにバランスを保って成立しそうなため「スルーネック」という考え方に至らないのだと思います。


と言っておいて、実はスルーネックのウクレレを試作中です。

葉巻の箱ではない四角い箱のウクレレです。箱の材質は金属の缶やアクリルの箱などを想定しています。


ボディーの材質が木製ではないウクレレの場合、木製のネックと異なる材質のボディーをがっちり一体化させて弦を振動させるというのはなかなか難しいため「スルーネック」構造にしてしっかり弦を振動させ、箱でその振動を音として増幅させるという考え方になります。


沖縄のカンカラ三線などがもともとの事情は違いますが同じような構造になっています。金属ボディーのリゾネイター・ギターなども同様です。


試作が進みましたらまたここで報告させていただきます。


スルーネック ウクレレ


閲覧数:175回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Commentaires


bottom of page