どれがいったいサミュエル・カマカJr.が最初に作ったオリジナルのシガーボックス・ウクレレなのか?様々な情報に混乱するなか、上野にあるKIWAYA商会のウクレレ・ミュージアムへ出向きました。貴重なコレクションがショーケースの壁面に沢山飾ってある中、Kamakaのシガーボックスらしきウクレレはショーケースの一番隅の方でスタンドに立てられていました。
それは一見して、お~あれだ!と思われる姿形、そう「オリジナル」と言われている写真とそっくりで、おそらく「オリジナル」と言われるものと同じ時期に同じ人が手がけたであろうという雰囲気も充分なものでした。特徴的なネックはほぼ同じ形に見えます。ボックスも1886の文字がある表の蓋をトップに持ってきており、しかもヒンジが下に位置する天地逆さまというところまで同じです。違うのはフレットボードに大きめのポジションマークがあることと、木製チューニングペグが通常のヴァイオリン型ではなくかなり凝った形をしていることでしょうか。
なんとウクレレ・ミュージアムの方から手に取って見ても良いという許可もいただきましたので更に細かく見ることができました。手にとってみると重くもなく、軽くもなく、ほぼ想像のとおりという感じですが、裏返して見ると結構失敗した跡が・・フレットボードのポジションマークを象嵌するときにフレットボードの裏まで穴が貫通してしまった痕跡があり、ネックの付け根の箱部分は明らかに接着し直してますがその理由はちょっと想像できません。サウンドホールから中を見るとネックブロックが思ったより薄い。不思議なことにネックブロックの両サイドに小さなL字型の木が貼り付けてあります。何のため?と言いたくなるほど小さくて機能していないような印象です。
私が一番確認したかったのはトップの厚さです。この1886の箱はそのままでも一応鳴るとは思うのですが杉の一枚板ですから楽器を作る人は薄くしたくなるだろうと睨んでいたら、案の定削ってありました。通常5mmほどある箱の蓋をウクレレのトップにするために2mm位まで薄く削っています。薄くした分トップの裏にはブレイスが2本貼ってありますがバックにはブレイスが無いようです。見た所テールブロックもありません。ただ薄くしたために蓋のヒンジは位置が合わず外したままになっています。ちなみに「オリジナル」と言われる写真にはヒンジがついているのですがよく見ると1886の箱についていたオリジナルではなくホームセンターで売っているような普通のヒンジがねじ止めでついています。
ここでふとミュージアムでつけた分類用のタグを見てみると、そこには「1960年頃 Kamaka Cigar Box Replica」とあるではないですか!びっくりです。ひとつはレプリカであると書いてあること、もうひとつはこれが1960年頃に作られたということです。
ミュージアムの方に聞いてみたのですが、詳しかった元の担当の方がやめられていて素性については全くわからないとのことでした。
「オリジナル」と言われている写真とほぼ同じ頃同じ人が作っただろうと思われるものが1960年頃製作というのはサミュエル・カマカJr.本人が言っていることと一致しています。サミュエル・カマカJr.は1940年代から50年代は戦争で軍隊、終戦後は大学、大学院で米国本土にいて1950年頃からウクレレ作りを本格的に学んだと言っていますので1940年代から50年代に作ったという話はやはり想像でしかないのではと思います。
このウクレレがレプリカであるという件ですが、何かをモデルにレプリカを作ったというより、むしろ試行錯誤を黒返しながら作っていることがありありと分かるものですから、私がピンと来たのは自分でも失敗作は人に渡したくないという気持ちです。
創業者のサミュエル・カマカSr.が亡くなる直前に言い残したと言われる
“If you make instruments and use the family name, don't make junk.(もしビジネスを引き継ぐなら、ガラクタを作ってカマカの名前を汚すな)”
を思い起こしました。2000年前後に作ったものは自分のサインを入れたり、マークを入れたりしてるのに1960年頃作ったという初期の12台については詳細を語っていないために、レプリカと言わざるを得ないということではないでしょうか。(続く)
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