1960 年代のフォークブームをご存知でしょうか?たぶん今は70歳代以上の先輩達しかピンとこないかもしれませんね。
このフォークブームを牽引したグループが The KIngston Trio です。カレッジの学生風、ストライプのシャツ、3人がギター、バンジョーを弾きながら歌うスタイル、そして所謂コーラスグループの美声ではない親しみのある歌声、これらが当時の若者の心を捉えたようで、このムーブメントはビートルズが登場するまで続きました。
さて楽器の話になるんですが、1960 年代はギターをはじめとする楽器の世界にも大きな変化がありました。
第二次大戦後のアメリカが経済的に豊かになり、バカでかい車に乗りバケツのようなでかいカップでコーラを飲んだりし始めたころです。「楽器は自分で作るもの」という感覚が薄れ「楽器は買うもの」となり、シガーボックス ・ギターなどが完全に衰退した時代でもあります。
Martin のギターが最も売れたのがこの頃で、この The Kingston Trio の人気によるものだそうです。もちろん Martin のギターや VEGA のバンジョーは当時でも高級品で、学生が簡単に買えるものではなかったので、数ある普及品のブランドのものがめちゃくちゃ売れまくっていたそうです。このころ日本の楽器メーカーが委託生産を受けたり、輸出したりでアメリカの普及品市場を支えてきました。
ということで、話は The Kingston Trio に戻ります。
写真の真ん中が Nick Reynolds という方でギターを持っていますが、よく見て下さい 4 弦ですよね。テナーギターと呼ばれるもので、1920 年代くらいからあるようです。元々はテナーバンジョーの音が大きすぎるためステージによってはテナーバンジョーの弾き手がギターも弾けるようにと考えられたものだそうで チューニングはテナーバンジョーと同じです。
Nick が持っているのが Martin O-18T ですが当時でも今でも Kingston のスタイルでバンドを組む以外には用途が見当たらない楽器です。従ってこの Trio の象徴みたいな楽器でもあります。
ではなぜ The Kingston Trio はテナーギターを使っていたのでしょうか?
写真をもう一度よく見てください。5 フレット目にカポがついてますよね。実はどの写真も同じようにカポがついています。
デビュー前はパーカッショニストでコンガなどを叩いていた Nick は、Trio がデビューするにあたり何か楽器を弾けたほうが良いということになったそうです。
ギターは弾けないがウクレレなら弾けるということで、皆で考えたのがテナーギターのチューニングを普通のギターの1~4 弦と同じにし 5 フレットにカポをしてウクレレとして弾いてはどうだということだったそうです。
彼はずっとこのスタイルでウクレレとしてリズムを刻んできました。
時々 8 弦に改造したテナーギターも使っていますが、これも 8 弦のウクレレと同じです。
しかしこれは結果的に The Kingston Trio のサウンドの魅力を決定づけることになりました。3人の声が一人づつ個性的で特徴があるのと同じように 3人の楽器の音のバランスがいいのす。
ギターが 2 本になったり3本になったりするより 3 人がそれぞれの音を出している方が、いかにも「 3 人集まって楽器を弾いて歌う」という身近で親しみやすいスタイルが強調されたのです。
当時の若者はレコードを買って聴くだけでなく、自分達もやってみたいと思ったものです。ギターやバンジョーが売れまくり、コピーバンドはそこら中にあふれるという一大ムーブメントとなったのです。
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